難易度が大きく変わった
英語によるコミュニケーション能力を測定する「TOEICテスト」の出題形式が、2016年5月から一部変更されることになった。
TOEICテストは1979年に第1回公開テストを実施。06年に出題形式が大幅改訂されており、今回は10年ぶり2度目の大改訂となる。日本では人事考課の要件として採用している企業も多く、年間延べ240万人(14年度)が受験するテストなだけに、注目度は高い。11月15日、日本の運営元である国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が都内で記者発表を行い、開発元であるETS(米国ニュージャージー州)のフィリップ・エバーソン博士らが詳細を説明した。
それによると、16年のTOEICテストからは、3人以上の人物による会話問題、音声で聞いた内容と問題用紙に印刷された図表を関連づけて答えさせる問題、「インスタントメッセージ(チャット)」など近年利用されるようになったツールで複数名がやり取りを行う問題などを新たに採用。これまでに比べて、より実践的かつ日常的なコミュニケーション能力が測れるよう工夫が施されているという。
そのうえで「リスニングセクション(45分間・100問・5~495点)とリーディングセクション(75分間・100問・5~495点)から成るテストのレイアウトはこれまで通り。調査・検証を重ねて、難易度に変化が生じないよう設計されており、これまでのスコアと新たなスコアは同じ評価となります」(IIBC R&D室長・三橋峰夫氏)と、テストとしての質や一貫性が担保されていることが強調された。
とはいえ、配布されたサンプルを見るかぎり、これまで以上に“手ごわいテスト”になる印象は否めない。たとえば、設問数だけ見れば全部で200問なのは変わらない。しかし、比較的正解を出しやすいとされていた「写真描写問題」「応答問題」「単文穴埋め問題」が減り、その代わりに複雑になった「会話問題」や、文章量の多さからこれまでも解き切るのが大変だった「長文読解問題」がさらに増えている。
確実な対策は「基礎力を充実させる」
内容的にも、リスニングセクションではElisions(省略形:going toがgonnaになるなど)やFragments(文の一部分:Yes, in a minute; Down the hall; Could you? など)を含む会話が流れ、話し手の“暗示している意図”を問う問題が加わる。また、リーディングセクションでは、3つの関連文書を読んで理解する設問が加わる。これまでに増して英語力・情報処理力が問われる改変になっているのだ。
東京・八重洲で社会人向けにTOEICの指導スクールを主宰している中村澄子氏は「見かけは前回(06年)の改変のほうがインパクトがあったが、難易度は今回のほうがはるかに大きく変わった」と分析する。
「ポイントは“読む力”を問う問題が増えたことです。長文読解問題のボリュームが増えたことに目を奪われがちですが、実はリスニングの会話問題と説明文問題こそ“読む力”が問われます。音声が流れる前に設問と選択肢を読み、それを頭に置いて聴く、あるいは“読みながら聴く”ことも必要かもしれません。それには文法や語彙など基礎力の充実が必須です」(中村氏)
現行のスタイルになってから10年が経ち、書店にはいわゆる「TOEIC対策本」が所狭しと並んでいる。テストである以上、傾向分析と対策は必要だが、最近はおよそ英語力と関係のない“裏ワザ系”の情報が増え、ETSがこうした傾向を問題視していたとの見方も一部にある。
いずれにせよ、現行の対策本の多くは「改訂版」が出るか、徐々に「新テスト対応」の対策本に取って代わられることになるだろう。来年3月以降にIIBCから『新公式問題集』がリリースされる見通しだが、新テスト対応の対策本が出回るのはそれ以降、早くとも5月以降になると思われる。そのため、新テストを視野に入れた勉強をするなら、当面は手さぐりになる。「漏らさず聴き取り」「速く正確に読む力を養う」という王道の勉強法こそが、唯一確かな得点獲得法だろう。